昨日、出たばっかりの水月昭道さんの「高学歴ワーキングプア」-フリーター生産工場としての大学院-という本を読みました。おそるべき実態を知って唖然呆然です。平成三年から文部省は大学院重点化計画を立て、20年前にはたった7万人であった修士課程、博士課程の在籍者を2006年には26万人を突破するほどの人数を大量生産しました。
これらの文科省の指導による、大学院重点化計画による院生増産は、もの凄くいびつな社会構造を作ってしまったのです。それは博士課程を修了した人や博士号をとった人達の就職先がまったくないに近いという悲惨な状態に目を向けずこの16年間以上、なんら手も打たず放置してきたことを意味します。
大学院修了で就職する人はまだ恵まれている方です。しかし、博士課程までいってしまうとそれが悲惨な結果になるのです。すでに1万2000以上の人たちが正規雇用されず、フリーターに近い状態で放置されているのです。まさしく、まじめにこつこつ学究生活を続け、ほぼ一人前のスキルを身につけ、これから大学および公共施設などの学術施設で一生涯保証された環境で大学の研究を続けていけるだろうと考えながら生きてきたことが、全部裏切られてしまっているのです。
ほとんどの常勤ではない一万二千人の人たちには非常勤講師で名刺に書ける仕事をし、残りは家庭教師や塾、コンビニなどで仕事をしています。人間の数が減ってきているわけですから、昔ほど予備校や塾の安定した職場も減ってきているわけで、実態も大変な状態です。しかも、1万2000人は毎年これからも5000人づつ博士課程修了者として増えていくのです。
水月氏が洞察したところによると、学生数がこの20年で28万人減っている。したがってこの数を大学院、およびドクターコースの在籍者を増やすことで収入を確保すれば学部数からの収入が減ったことの穴埋めができ、めでたく大学は存続し、しかも教授達の職業も大学院の先生に異動することで、辞めなくて済んできたのが実態でした。
それらの犠牲になった若者達にわずかに与えられているセーフティネットは三年間のポストドクトラルフェロー1万人支援計画なるものだけです。これはたった三年間ぐらいの間は社会保障をもらい研究費も100万ほどつけてもらえ、自分の論文を生産して次なるポジションに生かしなさい。その間は一応、給料を400万~500万払ってあげましょうということです。
私の友人でも筑波で研究者(団塊世代)として生きてきた人がいますが面接に来るポストドクトラルフェローの応募者は少ないポジションを大勢で争うためにどうしても弁の立つ人ばかりが悪目立ちしてそのポジションをとっていく。
だけど、こつこつまじめに研究生活に打ち込む科学者はあんなふうじゃないよ。ボクだってそうだけどもっと寡黙で自己アピールが下手なのが当たり前なのにとため息をついていました。それでもその友人の科学者は団塊の世代の人なので、58歳を過ぎて短大の仕事を得て給料も前と同じだけもらっています。しかも大学院重点化計画の波に乗ってその短大も四年制になり、さらには大学院を作ることになり、その人はそれを作れるたった一人の有能な人ということでますます首が伸びそうです。あと五年。65歳までは安泰だとか。たぶん70歳までは席を保つことでしょう。

しかもこの「高学歴ワーキングプア」によると、今後は今まで国家が与えてきた一人当たり大学院生に国から与えた補助金(一人の博士を作るのに合計一億円税金を使っているらしい)も出し渋る傾向で、大学院でありながら弱小の大学から倒産していく運命であるのだとか。
大学院がなければ生徒が集まらないから作る。しかし、国は旧帝大クラスの拠点大学だけに今後ますます研究費を与え、それ以外のラインから漏れたところにはなるべく助成を削り、ブランド力、収容力(学生を集める力)がない大学は市場から去れ(つぶれてOK)という方向を国として決定済みらしい。博士号をもつ優秀な若者の希望をなぎたおし、自殺と行方不明者の数字をさらにアップさせて不幸にする決定がなされているらしいのだ。
ちなみに、水月氏の本の21ページから抜粋すると、平成18年度の博士課程修了者数は、15966名。過去最高で、そのうち「死亡・不詳の者」、1471名(9.2%)。つまり博士卒の約1割は、社会との接点が確認されてることなく姿が消えているらしく、人文・社会科学の分野では、修了者2601人中「死亡・不詳の者」は495名(19%)ちなみに、就職者は897名(35%)と、まさに絶望的な数字です。
是非、この本を大学院を目指す本人にも子供に高学歴を望む親の方々にも読んでいただきたい一冊です。