菅原「一番基本的なことですが、インフルエンザと鳥インフルエンザ、そして新型インフルエンザの3つの定義がわからないと話が混乱してしまいがちですので、わかりやすく教えていただけますか?」
岡田「インフルエンザはウイルスで毎年流行するものですが、これに感染すると高熱・筋肉痛などの症状が現れて、せきや鼻づまりなどの症状も加わります。そして日本だけでも毎年1万人単位の人たちがこの普通のインフルエンザでなくなっています。それに対して、鳥インフルエンザは、あひるや鴨などの水鳥など多くの鳥類が感染したインフルエンザです。特ににわとりや鴨などが死亡してしまう症状をきたすものを、高病原性鳥インフルエンザといいます。鳥インフルエンザは普通、直接人に感染することはあまりありませんが、偶発的に人にこのH5N1型高病原性鳥インフルエンザの発症、つまり鳥インフルエンザが人に感染してしまって、そのうち、半分近くの人が死亡するという事例がタイ・ベトナム・インドネシアなどの東南アジアを中心に起こり始めています。
そして3番目の新型インフルエンザというのは、こうした直接的に鳥から人間に感染するような散発的な事例がさらに進んでいくと、鳥と直接接触のない人たちがウイルスの変異(遺伝子の一部分がコピーされるうちに変わってしまう)によって人から人へどんどんと感染するようになったとき、新型インフルエンザウイルスと呼ぶわけです。
菅原「今テレビや新聞のニュースなどで、耳にしたり目にしたりするのはH5N1の強毒型の鳥インフルエンザ…といわれていますが、私にとってH5N1強毒型で思い出すのは1997年の香港で大流行した鳥インフルエンザの例です。あの時確か、香港政庁衛生部はH5N1型の鳥インフルエンザウイルスが判明した瞬間に3日間で鶏やアヒル等の140万羽を処分しましたね。私はかつてそんなに多くの家禽類を処分するという例や速やかな判断をした政府をみたことがなかったので、大変な時代が来た。と同時にこの経済効果や食べ物を奪われるという批判を乗り越えて速やかな判断をするなんて、なんて凄いのだろうと感動もしました。」
岡田「そうです。あの時、18人の人たちが実際にこの鳥インフルエンザにかかり、6人が死亡しました。しかしここで、人から人への伝染力をもつ新型インフルエンザにしないためには、ここで大英断を下すしかないとリーダーシップを発揮して処分を決めたのは衛生部トップの女性の管理官だったのです。香港では鳥の食文化が長くあったので、これは本当に大英断でしたが、今ではWHOはじめ、世界の鳥インフルエンザから新型インフルエンザを阻止するための、最も基本的な方法としてお手本になっています。」
菅原「それでは私達には難しいかもしれないのですが、H5とかN1とか言われているウイルスの構造を教えて下さい。」
岡田「ウイルスの種類はA型、B型、C型の3種類がありますが、人に毎年流行するのはA型とB型ですね。そしてこのA型のインフルエンザの中から、新型(世界大流行型)インフルエンザが登場するのです。A型インフルエンザウイルスはウイルスの脂質でできた2重の膜のボールの内側に8本のRNAの遺伝子情報だけ持っています。表面には16種類のHA(赤血球凝集素)と9種類のNA(ノイラミニダーゼ蛋白質)というタンパクがボールの外側にまるで釘を打ちつけたような構造になっています。従って、H5N1鳥インフルエンザというのはHAが16種類の中のNo.5そして、NAが9種類のうちのNo1型の組み合わせだという意味です。」
菅原「HAの役割は主に何ですか?」
岡田「これは人間の細胞とか鳥の細胞の、例えば気道細胞の表面のレセプターに結合してウイルスが鳥や人間の細胞の中に入っていけるようにするものです。」
菅原「それでは新型インフルエンザだと今まで鳥の細胞にしかはいっていけなかったHAがほんのちょっと変わっただけで人間の気道細胞に入っていけるようになってしまっちゃうことですか?」
岡田「人のインフルエンザにかかっている人が、同時に鳥インフルエンザにかかってしまった場合、この鳥の細胞の表面に取り付くHAの部分が人の細胞にもくっつきやすいものに変わる事もあると予測されています。つまりHAは人の細胞にくっつきやすいのりに変わってしまったら、それこそ人から人へどんどん感染者が増えると考えられるのです。」
菅原「それではNAはどんな役目をしているのですか?」
岡田「NAの方はウイルスが鳥や人間の細胞の中で充分にたくさんのウイルスとして増えた後、その細胞からウイルスだけを遊離させていく、つまり1回他人の細胞の中に入り込むためにのり付けした、そののりを今度ははがして外に飛び出しやすくするのです。そして、ウイルスはこのような方法でまた、他の細胞内に侵入して同じことを繰り返し一個のウイルスが1日で100万個に増えるという凄いスピードで増殖するのです。」
菅原「先日、クローズアップ現代を見ていたら、ベトナムの子供の感染では入院してすぐに片方の肺が真っ白に炎症しているのがたった1日で肺全体に広がり、たった3日で肺炎で死亡という酷さでした。この子供たちの場合は直接、家の裏でにわとりを飼っていて世話をしていた鳥からの直接感染でしたが急速にウイルスがNAを媒介として広がっていくという説明が納得できます。」
岡田「今のところ、家禽類からの直接感染で、特に東南アジアは家の裏で小規模で飼っているので感染してもそれがただのインフルエンザなのかわからず病院に入院するとすぐに末期症状になっているのは、やはり鳥インフルエンザの情報の遅れが原因なんです。大規模経営の養鶏であればあらかじめ、視察に回る、そして教育する、そして報告を義務付けるなどの方法が採れるのですけど、小規模な家で自宅のたべる卵の分だけのようなアヒルや鳥の飼い方は発見が遅れやすくて、その分人間が感染していくのです。今はフェーズ3の段階です。」